交通死亡事故と税金


交通死亡事故により遺族が受領する賠償金等には,どのような税金がかかるのでしょうか?

要約すれば,
1 損害賠償金は,非課税(まれに例外扱いの項目あり)
2 人身傷害補償保険は,被害者の過失割合部分に課税される
3 搭乗者保険は課税される(損益相殺されない)。
4 2・3の課税項目は保険料の負担者により異なる
 ア 受取人が負担・・・所得税(一時所得)
 イ 死亡した被害者が負担・・・相続税
 ウ 第三者が負担・・・贈与税
 エ 非課税になる良くあるケース…当該保険金が,「被害者の死亡により,相続人等が被害者の雇用主等から受ける弔慰金等で,一定の条件を満たすもの(相基通3-20,3-23)」に該当する場合(雇用主等の代わりに受領して雇用主が支払うべき災害補償等に充当するケースが良く見られる)
5 贈与税の税率は高いですが,相続人ごとに控除が受けられるので,1000万円の搭乗者保険を受領しても,2名以上の相続人がいる場合は,100万円前後かそれ以下になります。
 なお,下の3の4「計算例」(搭乗者保険)は,当事務所で扱った交通死亡事故の事例に基づき,税理士の井川真理子先生にも確認を頂いています。
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 井川真理子税理士事務所 → ホームページ
 
 重次法律事務所と同じビル内に事務所を開設する,相続専門の税理士です。
 これまで,当事務所の交通死亡事故で遺族が受領した人身傷害補償保険,搭乗者保険の税務,相続税務などについて,申告納税の手続きやアドバイスを頂いています。

1 交通死亡事故の損害賠償金は,原則,非課税

1)まず,交通事故の被害者が受領する損害賠償金(治療費,慰謝料,休業損害,逸失利益など)は,原則,非課税です。課税対象となる例外は,ごく限らた場合です(所法9,51,73,所令30,94,所基通9-19,9-23,例外は事業関係が中心,詳細は,国税庁ホームページをご参照ください→こちら

2)次に,被害者が死亡したことに対して,遺族に支払われる損害賠償金についても,所得税法上,非課税規定があり,非課税です(相法2,所法9,所令30)。但し,被相続人(死亡した被害者)が生存中に受領することが決まっていた損害賠償金を,受け取らない間に死亡した場合は,損害賠償請求権という債権が相続財産となり,相続税の対象となります。

2 人身傷害補償保険の過失割合部分は非課税,被害者の過失割合部分は課税対象

1)人身傷害保険金については,課税の対象となるか否か,課税の種類について,場合分けが必要です。

2)平成24年の2つの最高裁小法廷判決が,訴訟基準差額説を採用しました。また,改正保険法は,差額説を強行法規として規定しました。このため,人身傷害保険金については,被害者の過失割合部分から充当されることになります。このため,被害者の過失割合部分に相当される保険金については,損害賠償の性質を有さず,課税対象となります。

 具体的には,保険料の負担者によって,以下の税金となります。
ア 保険金の受取人が,保険料を負担した場合・・・所得税(一時所得)
イ 死亡した被害者が,保険料を負担した場合・・・相続税
ウ アイ以外の第三者が,保険料を負担した場合・・・贈与税

3)これに対して,加害者の過失割合部分に相当する保険金については,損害賠償の性質を有するので,原則,非課税となります。

3 搭乗者保険(課税対象)

1 搭乗者保険を契約している場合,交通死亡事故では,対象となる死亡被害者1名あたり1000万円が給付される例が多く見られます。金額が控除対象内に収まらない場合が多く,ほとんどのケースで課税の問題が発生します。

2 損益相殺はされない(最高裁平成7年1月30日判決)
最高裁は,搭乗者保険について,その性質から,損害をてん補する性質は有さないとして,損益相殺を否定しました。
したがって,遺族が受領した搭乗者保険金は,課税対象になります。
なお,上記最高裁判決以降の下級審裁判例においては,搭乗者保険の受領について,慰謝料の減額事由にはなるとするものと,慰謝料の減額事由としても考慮しないものに分かれています。

3 保険料の負担者によって,以下の税金となるのは,人傷保険金と同様です。
ア 保険金の受取人が,保険料を負担した場合・・・所得税(一時所得)
イ 死亡した被害者が,保険料を負担した場合・・・相続税
ウ アイ以外の第三者が,保険料を負担した場合・・・贈与税

4 計算例
・搭乗者である男性が死亡,妻と2人の子が残された。
・加害者(運転者)の雇用主が保険料を負担する搭乗者保険金1000万円が支給された。
・妻の相続分 500万円
・子の相続分 250万円×2
・妻の税金 基礎控除110万円,控除後390万円,税率20%→78万円,金額対応控除25万円 → 53万円の贈与税
・子の税金 基礎控除110万円,控除後140万円,税率10%→14万円,金額対応控除はなし → 各14万円の贈与税
・総計 53+14×2=総計81万円の贈与税 
・申告納税が必要になります(申告納税期限 翌年3月15日)